ぼくは琴石山に登ることにした。
柳井滞在の最終日、いろんなところに誘われたけど、
町の後ろにある小さな山に登ることにした。
「村でも町でも新しく訪ねていったところは必ず高いところへ登って見よ」
周防大島出身の民俗学者・宮本常一さんが
旅で大切にしている十カ条のひとつだ。
登山口から1時間もかからずに山頂に着く
この琴石山からは柳井市とその奥には上関が見渡せる。
「上関」と聞いて次に思い浮かぶ言葉は「原発」だろう。
実際、ヒッチハイクで向かう途中も離れる時も
常に「上関」と「原発」はセットで話の話題にのぼる。
霞みがかる春の空に一際目立つ建物がある。
火力発電所だ。
さらに柳井市には大きな建物が多いことに気づく
立派な市民球場も体育館もある。
商業施設も工業施設もたくさんある。
上関と柳井の間にある平生町には
うっすらとしか見えないが風力発電所がある。
(この事業主は中国電力ではない)
そして、上関に原子力発電所ができるかもしれない。
町の規模はどう見ても、上関<平生<柳井
上関で作った電気は他の都市のために消費されていく。
上関で生まれてしまった汚染物は瀬戸内海へ、日本へ、地球の反対側へ流れていく。
「上関の海を見てほしい」
昔、一緒に住んでいた友達の口癖だ。
友達のおばあちゃんのお手製料理が並ぶ
海からの恵みが並ぶ
「この海に原発は必要なのだろうか」
ふと、そんなことを思う
琴石山の手前に茶臼山古墳がある。
はるか昔、ここに住んでいた王様の墓だ。
ここには墓ができた理由を歴史学者は
「瀬戸内海を通る人々に権力を誇示するため」と断定したが
ぼくは
「ここから見る海が好きだった」に違いないと考える。
このお墓が自然に還るまで数百年を要した。
原発のゴミが無害になるまでかかる時間は10万年。
10万年後、ここから見る景色はどう変わっているのだろう。
「これが、ぼくの生まれた故郷の海だ」
旅人に自慢するそんな声が、
遠くから風に乗って聞こえてくる。
今日も琴石山では広島から朝陽が昇る