<山は嫌いじゃない>
@白山の旅 白山・南竜ヶ馬場 2023.7.25
登山は嫌いだと何度も言ってきたが
山は嫌いじゃない
とくに幾千もの星を抱きしめがら寝る夜は
特別に寒いが、格別に美しい。
宇宙からの灼熱の太陽光は嫌になるが
汗をぬぐっていく涼風と青々しく連なる稜線は足を止めてしまう。
高いところに登ると自分が、人間がどれだけちっぽけな存在なのかがよく分かる。
背伸びをしたって届かないところがあることが嬉しくなる。
遠くを見渡せるところにたどり着くと、過去も未来もどこにもないことがよく分かる。
ずっと欲しかったものを手に入れたって、きっと空っぽなんだって安心してしまう。
めいめいがおのおのの道をそれぞれに歩いてきたというのに
マジックアワーに映し出されたスクリーンを一緒に眺めている。
誰が言い出したわけでもないのに空が茜に染まるとき
私たちは共時の世界にいる。
その一瞬の色の移り変わりもまた好きなんだ。
みんなして、空がこんなに美しいなんて、初めて知ったかのように目を丸くしている。
そんな人たちを眺めるのも好きなんだ。
山は嫌いじゃない。
大人から子供を引き出してしまうから。
人間から野生を引き出してしまうから。
青い空を吸い込んで、赤い雲を吐き出す。
白い光を吸い込んで、黒い闇を吐き出す。
めいめいがおのおののリズムでそれぞれに深呼吸する。
誰も音頭を取っていないのに山が闇に染まるとき
私たちは同時に眠りにつく。
その一瞬の音の移り変わりもまた好きなんだ。