カミとホトケが宿るところ

<カミとホトケが宿るところ>

@白山の旅 石徹白(美濃)禅定道と平瀬道 2023.7.27

 

岐阜県側から白山に登る主要な登山道には3つあり、その中の石徹白禅定道と平瀬道を旅した。

 

ひとつは昔ながらの石徹白禅定道であり、起点はスギの巨木林に囲まれた白山中居神社と足元に湧き水が溢れる石徹白大杉で、ここまでは登山とは関係ない人も多く訪れる。

 

石徹白は夏には農業、冬にはスキー場で賑わう小さな集落だが、修験道が盛んだった江戸時代には禅定道を歩く人々が多く訪れた村だ。「中居」神社というだけあって、ここは里と白山をつなぐ中継地点だった。白鳥町にある長瀧白山神社と同様に神仏習合の形をとり、多くの堂が建設され、訪れる人々に癒しと修行を施していたようだ。

 

石徹白という漢字を「いとしろ」と一発で読める人は少ないだろう。白山中居神社記には「伊邪那岐・伊邪那美の2神が船岡山の坂路に千引岩を引き、許等度をしようといわれた時、船岡山一帯に白雲がたなびいた。それにちなんで千引岩・許等度・白雲から1字ずつとって石度白と名づけた」という。

 

そして泰澄大師がこの石徹白を通って白山へ登った時に「わが宿願貫徹せり」といわれ、石度白の度を変えて石徹白と書くようになったのが漢字の起源だという。

 

この石徹白という漢字には「石堂白」という字が当てられることもあったというように、里から白山禅頂(山頂)まで多くのお堂が建てられていた。

 

仏教寺院において修行の中心的な場は「堂」である。この堂に篭って断食や読経などを行ない、身体を清めていく。その元となったのは「ムロ(室)」だ。つまり山の中にときどき見られる大きな岩でできた洞窟のような石室(岩屋)だ。そのため日本の多くの登山道の途中にはこういった修行の場を見ることができる。

 

修験道に関する伝説の中では必ずと言っていいほど石室の中で奇跡が起きる。この石室の中で先達たちはホトケを感じ、圧倒されてきた。大きな岩で囲まれた空間では里の日常とは全く違う空気が漂う。修行僧はそのパワーにあやかって身を清め、集中力を高め、さらに上へ上へと進んでいくのである。

 

そのため修験道が盛んだった白山と立山ではどちらも中心的な修行場は「室堂」と名づけられ、現代登山の中心地にもなっている。室堂は身体を休める安心の場でもあり、さらに山奥へと進むための修行の場でもある。そこで巨岩に囲まれた異空間が持つパワーにあやかるのだ。

 

どうやらもともとの美濃禅定道にはこういった天然の岩屋や洞窟が滝とともにたくさんあり、それをひとつひとつ紡いでいくことで禅頂までホトケとともに歩んでいたようだ。

 

もう一つ岐阜県側の主要登山道である平瀬道は白川村から大白川ダムへと車で入っていく。終点の大白川ダムが登山道の入り口であり、天然の温泉が湧いている。

 

平瀬道という名前の通り、ここは白山信仰の道ではなく、近代に入ってから開かれた道である。ダム開発と営林署の管理のために作られた道を登山道として整備されたのが始まりだという。

 

しかし、私はこの道には隠された歴史があるような気がする。いや、隠されたのではなくほとんど知られていないだけかもしれない。

 

というのも、1960年代に大白川ダムの建設がはじまったということは必ずここまでの道を知っている人が近くの村の中にいたはずだからだ。その証拠に大白川ダムのところに温泉が湧いていることは村人の中でも山に入る男たちにはよく知られていたそうだ。

 

そして、それを裏付けるかのように大白川ダム周辺に残っている原生林の巨木の中にはトチノキやホオノキなど利用価値の高い樹木が残っている。おそらく木ノ実や薬草、キノコなどを採取していたはずだ。

 

さらに私はここから禅頂までの平瀬道の中間地点に鎮座する大倉山までの道があったと考えている。なぜなら「クラ(蔵、倉)」は神道においてカミが宿る場所のことを指すからである。

 

ホトケがムロの中に宿るとすれば、カミはクラの中に宿る。ムロは部屋のような構造を持つものが選ばれるが、クラは巨岩・巨木・山そのものが選ばれる。その内部に宿るという点では同じだから、面白い。平瀬道の大倉山には避難小屋があるのは、もしかしたらここには昔、祠か何かがあったのかもしれない。ここから見える白山の姿もまた美しい。

 

白山にはいくつか「倉」という地名を持つ山があり、その全てが白山山頂へと続く登山道の中継地点にある(長倉山と七倉山)。ここに神仏習合の思想が見られる。「ホトケ、ボサツが仮にカミの姿となった」と考える本地垂迹説は平安時代から鎌倉時代にかけて発展した。

 

つまり白山禅頂への修行を達成するためにムロに宿るホトケとクラに宿るカミが人々にパワーを与え、身を清めて導くのである。白山の山麓には多くの原生林が残るのはカミが巨木に宿ると考える古神道・アニミズムの思想があったからだろう。

 

平瀬道には多くの巨木がそびえ立ち、登山者を見守る。トチノキ、ブナ、ミズナラ、ダケカンバたちが大地を掴み、大空を舞う。雨を受け止め、風を受け流し、光を受け続ける。その恩恵は山から海まで川と土になって浸透していく。市ノ瀬側に残る原生林とはまた一味違う雰囲気が漂う。

 

江戸時代までの人々はカミとホトケを共在させることで自然からの恵みを最大限に受け取り、災害を最小限に食い止めてきたようだ。

 

カミとホトケが宿るところ。それこそが白山を代表とする修験道の山々であり、日本の山々である。古来から日本には多くの宗教がやってき、そして分派していったが、それでもそのすべてが共在していった。

 

この融合の世界観は世界でも稀有である。この世界観が日本の山にも、登山道にも見られるのは面白いところだ。西洋のアルピニストたちにとって登山は冒険であり、自然の脅威の克服だった。しかし日本の登山は信仰であり、自然の脅威をいなす道だった。思想は決して頭だけで考えるものではなく、道として軌跡が描かれるからこそ、意味がある。

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