ライチョウが導く道

<ライチョウが導く道>

@富山県・大日岳連峰 2023.9.23

 

朝少しばかり外が明るくなるとハイカーたちがぞろぞそ起きて行動する音が聞こえてくる。その音で目が覚めるのもテント場の一風景である。

そのひんやりした雲の中にここ雷鳥沢キャンプ場がある。ここは立山唯一のキャンプ場であり、近くに温泉があるのでとても人気がある。

 

前日の雨は止んだが、天気予報では1日曇りマーク。今はまだ青空が見えているが、標高2500M地点のここはおそらくこのあとずっと雲の中だろう。

その予想から今日は近くの大日岳連峰までの日帰りハイクのため、朝はゆっくり起きた。

このキャンプ場からはいろんな山に日帰りハイクができることも人気の理由の一つである。

 

朝ごはんを済ませて、日帰り用のザックに最低限の荷物をまとめる。その間にうっすら見えていた青空は厚い雲に覆われていた。

 

準備を済ませて歩き始める。9月後半は毎年厳しい残暑が里山を覆うが、ここ立山は寒い。

実は立山は本州でもいち早く紅葉が始まる場所なのだ。すでにチングルマをはじめとする高山植物たちの一部は葉を落としはじめているし、日陰のところではうっすら凍ってもいる。

 

雷鳥沢キャンプ場から大日岳方面へはまず最初に川を渡るのだが、その水量には驚いてしまう。沢というよりもすでに川に近いし、橋がなければ歩いて渡るのも危険なほど水量が多い。前日に雨が降っているから余計だ。

この水量の多さこそ、立山をはじめとする日本アルプスの特徴でもあるが、頂上からたった500M下ったところでこの水量なのは流石に驚く。

 

橋を渡ったところから一気に尾根まで急な斜面を登っていく。朝一の坂道は身体を起こすのにちょうどいい。白い息が空気と入り混じっていくたびに、山のリズムに合わさっていく。

 

尾根を登りきると本当なら左に大日岳連峰、右に剣岳が見えるはずだが、今は雲の中。何も見えない。こういうときは道を間違えたり、登山ルートから外れてしまう遭難事故が多く起きる。地図やアプリをこまめにチェックしながら歩きたい。

 

分かれ道の看板を見つけて、左に折れる。今日の目的地は奥大日岳とその先にある大日岳だ。雷鳥沢からは手前に奥大日岳、そこからさらに奥に行くと大日岳がある。これは本来の入り口は称名滝登山道だからだ。

 

称名滝からの登山道から入る手もあったが、テントを担いで行くには距離が長く、1日で雷鳥沢まで行くのはキツイ。山小屋泊なら大日岳のすぐ近くにある山小屋を利用するのもオススメだ。その理由はまた後で話したい。

 

尾根まで出ると雲の中でも一気に明るくなった気がした。おそらく太陽がこの雲を照らしているのだろう。奥大日岳に向かう道を歩いていると目の前に愛すべき神様の使いが姿を見せる。そう、ライチョウだ。

 

私はよくライチョウに出逢う。と言っても最近はライチョウの保護が進んだおかげで人馴れしているし、数も増えたからあまり珍しいことではない。それにライチョウは朝早く山を歩いていると高頻度で会える。そして、こういう日は特によく出逢う。

 

動物生態学的に言えば、ライチョウは明るい霧の中で行動することを好むという。彼らは空を飛ぶのが苦手なので、霧の中に紛れて行動するようだ。彼らは10数羽のグループで歩くこともあるし、一人きりで気ままに散歩していることもある。

 

私はライチョウに出逢うと足を止めて、観察し、そしてゆっくり歩く。彼らの暮らしを邪魔しないことはもちろん、彼らとゆっくり山を過ごしたいからだ。たいていの登山家は写真こそ撮るが、彼らのペースに合わせて歩くことはしない。なぜなら、自分の予定があるからだ。当たり前だがライチョウに会うことを想定した予定を組む人はいない。

 

ライチョウが道案内役を務めることが多い。という話をすると登山好きの人から驚かれることがある。多くの人はそんな経験をしたことがないようだ。しかし、私はなんどもライチョウの跡を歩いてついていった経験があるし、彼らが前を進んで歩いていってくれた思い出もたくさんある。

 

そして、今回もまた1匹のライチョウが可愛らしいお尻を振りながら、私の前を歩いていく。だから私は彼の歩みのスピードに合わせて、歩いていった。

 

10分ほど彼の後ろをついていくと、少しずつ彼との距離が縮まってきた。私は彼を驚かさないようにペースを落としていたのだが、それでもついには追いついてしまった。私は彼に声をかけ、写真を数枚撮り、そして彼に別れを告げて先に行くことにした。

 

すると、さっきまで小雨が降るくらいの厚い雲だったにも関わらず、いきなり明るくなり太陽が姿を見せる。すると目の前に綺麗な虹の滝が現れた。

 

私は再確認した。彼らにしたがって歩いていくと高頻度で絶景に出逢うということを。その絶景とは晴れていても、雨が降っていても見れるものではなく、晴れと雨が入り混じる時にしか見ることができないものであり、もう二度と同じ光景に出会うことはないだろう。

 

ライチョウは神様の使いである。神様からのメッセージを運んでくれる動物でもあり、神様に見守ってもらえていることを確認できる動物でもある。そういう話をすれば何かしら宗教的な話に聞こえるかもしれないが、別に何かの宗教に勧誘しようとしているわけではない。

 

ただ、こういうことを信じているとまるで本当にそうなのではないかと思うような瞬間に出逢えるのだ。

 

決して人間都合の絶景に出会えるという話ではない。

天気予報に反して快晴になるわけではない。

ただ「選択して後悔しない」モノ・コトに出会えるのである。「いま、ここ」を生きるとはそういうことだろう。

 

この日は結局ずっと厚い雲の中で、ときどき冷たい小雨のなかを歩いた。寒いから休憩することもほとんどなく歩き続ける1日だった。平日の朝早くだったからか、誰にも出逢わない。ひとり雲の中を歩く。雲の静けさの中を歩く時間は異様でもあり、不思議でもあり、なんだか落ち着く。異世界という言葉が流行っているが、そんな言葉が似合う。

 

大日岳という名前から分かるようにこの山には「太陽」が関連している。立山連峰はそれぞれの岳に仏教用語が当てられている。そこからも分かるように立山は神仏習合の文化のなか、修行の場でもあった。白山、立山は日本三大霊山であり、多くの宗教家が山にこもっていた場だ。

 

この大日岳と奥大日岳ももちろん修行の場として機能していたのだろう。今日は厚い雲に覆われてしまったが、ここから見る夕陽は立山連峰の中でも随一の絶景に違いない。ここから日本海に沈む夕陽を一度は見てみたい。

 

だからこそ、大日岳すぐ近くの山小屋に泊まるのもオススメだ。夕陽を見るためだけに利用する価値がある。夕陽には朝陽とも違うパワーがある。そのパワーはどの宗教を信じていようと必ずあなたの心の中まで届くだろう。

 

大日岳から雷鳥沢キャンプ場までの道を引き返す。帰り道は多くのハイカーとすれ違った。彼らも特別な「いま、ここ」を楽しめただろうか。仏教家の修行がどういったものかは分からないが、「いま、ここ」を味わうことができれば人生は十分楽しめる。

 

雷鳥沢キャンプ場に帰ってきてさっそく着替えて、お風呂に入り、十分に身体を温める。キャンプ場のすぐ横に温泉があるのはなんとも贅沢だ。いつもよりも長く浸る。再度キャンプ場に戻ってくると多くのテントで賑わっていた。四方八方から美味しそうなキャンプ飯の匂いが漂う。

 

私もテントのすぐ横で夕食を作って食べていると、オレンジ色の光が空から漏れてくる。気がつけば空の雲は次第に薄れていて、立山も姿を見せていた。そして、マジックアワーは東側の雄山と雲を見事に染めて、ハイカーたちはカメラを向けていた。

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Journey's Diary

 

大学卒業後、国内国外旅してきて

 

撮り続けた写真と綴ってきた言葉を

まとめたものです

 

長くて多いので

暇な時に読んでください♪

Book of my journey

 

ひとり旅をはじめてから

カメラとノートを

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その風景写真と短い言葉たちを

アメブロにて公開していました。

そのページをまとめたものです。

 

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